その時だった。
深津の脳裡にどこかのアリーナが現れた。
塵一つなく磨き上げられたぴかぴかのコートでは、原色のスポットライトが
派手に動き回り、赤いTシャツを着た人々がびっしりと客席を埋めている。マ
イクを通して司会者が観客を呷るたび、熱気に溢れた歓声がうわんうわんと反
響する。
いったいここはどこだろう。戸惑いながら辺りを見回す。
そうしていると、唐突に会場の照明が落とされ、周囲に闇が広がった。勇ま
しい音楽が大音量で流れ、一段と大きなどよめきが上がる。人々の手には赤い
タオルが掲げられている。選手入場だ。
白地に赤い線の入ったユニフォームを着た選手が一人、また一人と、明るく
なったコートへ勢いよく飛び出してくる。胸の日の丸と「JPN」の文字に、
彼らが日本代表チームだと気づく。
湘北の桜木のような髪の選手も、深津と同じくらい若そうな選手もいる。彼
らの顔は、この場所に立つ大きな喜びと責任感に満ちている。野心と闘争心を
秘め、自分のすべてを懸けて戦うことを決意した眼差しはどこまでもまっすぐ
だ。
その光景は驚くほどリアルだった。全身が一気に熱を帯び、耳の奥に心音が
どくどくと響く。手のひらに汗をにじませながら、深津は確信した。
これは未来だ。日本の男子バスケットが変わる日の――。
珍しく頬を紅潮させている深津を、堂本は眩しそうに見守っていた。
と、急に外が騒がしくなり、イメージがそこで途切れた。意識が一気に現実
に引き戻される。鮮烈な景色を名残惜しみながら窓の外へ目を向けると、走り
込みを終えた部員たちが駐車場に帰ってきたところだった。
彼らは思い思いに談笑しながらこちらに歩いてきていたが、先頭にいた沢北
が急に窓のそばまで走り寄ったかと思うと、目をまん丸にして何かを叫んだ。
そのままホテルの入り口に突進していく。沢北の声に反応した他の部員たちも
同じような行動をとり、次々にロビーへとなだれ込んできた。日頃から鍛えら
れている彼らの動きは実に敏捷で、深津と堂本はソファから立つこともできな
いまま、あっという間に囲まれた。
沢北が叫ぶ。
「髭どうしたんすか監督!?」
「監督が若返った!」「監督、かっけー!」「監督、こっち向いてくださ
い!」
それを皮切りに、興奮を露わにした少年たちがてんでに声を上げた。ホテル
の従業員がなにごとかと様子を窺いに来るほどの騒ぎようだった。
「静かにしろ! 他の方にご迷惑だろう!」
堂本が慌てて皆を叱りつけるが、恥ずかしさが混じる声にはいつもの勢いが
ない。真っ赤な顔にますます歓声が上がる。いつもは皆を諌める役のレギュラ
ーメンバーたちも楽しそうに加わっていて、深津も一緒に叫びたくなった。
「おまえら! もう一度走りたくなかったら静かにするピョン!」
深津は緩む口元に力を入れながら、部員たちに声を張り上げた。
今年のインターハイの想い出は生涯忘れないだろう、そう思った。